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2007年4月20日金曜日

医療費の地域格差をめぐって

前回(4月5日)の国民医療費の将来推計値に関する分析に続いて、株式会社メソッド(東京、03-3220-9171)の竹田剛主任研究員から「医療費の都道府県間格差」について寄稿がありました。以下、ご紹介します。


医療費の都道府県格差の実態

単純な1人あたり医療費では【1位 鹿児島2位 高知3位 長崎だが、人口構成を考慮した場合は、1位 福岡であり、2位 鹿児島3位 長崎となる


★ 人口一人あたり都道府県格差は1.86倍?

 以前から知られているように、人口一人あたりの医療費は地域間の格差は大きい。平成14年度の国民医療費(厚生労働省 残念ながらこれが最新でその前は11年度)によると、全国平均では、国民一人あたり243千円であり、最小の埼玉県は179千円、最大の鹿児島県は334千円でありその差は1.86倍と2倍近い開きがあるとされている。

★ 高齢者の医療費が大きく、単純な一人あたり医療費では比較できない

 同じ調査では、年齢階級別の一人あたり医療費についても集計しているが、一人あたり医療費が平均値(243千円)を上回るのは55歳以上からであり、以降5歳階級ごとに10万円程度増加し、85歳以上では一人あたり約100万円となっている。このことは、都道府県ごとに異なる高齢化状況(平成14年度末での65歳以上人口は最小の沖縄県は14.7%最大の島根県は26.2%)を無視して単純な一人あたりの医療費で格差を比較することは実態を反映していないということができる。
【図1 修正後一人あたり医療費の分布】


★ “修正一人あたり医療費”の算出

 このため高齢化状況を反映した“修正人口一人あたり医療費”を算出するものとした。これは前述の年齢階級別の全国平均医療費を基に、都道府県別の年齢階級別人口を乗じ都道府県別の“推定標準医療費”を求め、実際の都道府県別の医療費総額との比を求めた。この比が全国平均を1とした実際の医療費格差となるが、わかりやすくするためにこの比に全国平均医療費を乗じた値を“修正人口一人あたり医療費”と呼ぶこととした。この額は、各都道府県の人口構成が、全国平均だった場合の一人あたり医療費とみることができる。

【図2 単純1人あたり医療費の分布】

★ 実際の格差は1.54倍

 これによると、医療費の最小はやはり埼玉県(千円単位では長野県も同額)で199千円、最大は福岡県で307千円、で格差は1.54倍となった。首都圏や愛知県、阪神圏などの大都市圏では修正前に比べ1~2万円上昇し、その他の地方圏では高齢化を反映して減少する傾向となっている。特に島根県は、修正前は283千円と平均より16%高かったが、修正後は238千円と45千円減少し平均値を下回った。

★ やはり西高東低

 北海道を除いて東日本の各県では平均100とすると10ポイント以上上回る県はないが、大阪以西の西日本では10ポイント以上上回る県が多く、特に九州(沖縄を含む)は宮崎を除いて15ポイント以上上回っている。



【表 平成14年度都道府県別医療費、一人あたり医療費、修正一人あたり医療費】

【この投稿に関する問い合わせ先】・・・株式会社メソッド(主任研究員)竹田 剛まで


2007年4月12日木曜日

入札制度という悪弊

今日、東海地方のある政令市の特定健診・・・計画策定について入札があり、地元のM社が350万円で落札したというお話しを聞きました。印刷製本費用だけでも150万円ほど見込まれ、これに、データ分析や計画素案、会議資料作成などを加えるとどんなに厳しく見積もっても1,000万円程度は必要な業務とのこと。市にしてみれば、安いに越したことはないということではあっても、こういう大幅な赤字覚悟の契約が何をもたらすのか、関係者の皆さんはよくお考えになるべきだと思います。

もちろん、この業界にこうした安値受注の話は、いわば山ほどあります。企業には、それぞれの事情があって、場合によっては安値受注に走らざるを得ない状況に追い込まれることも理解しているつもりです。また、私自身、通常であれば数百万円規模の入札に500円で応札した、などということを身近に聞いたこともあります。しかし、そうであっても、こうした契約がもたらすものは、まず業務を担当する研究員の超長時間労働(それは、労基法って何? という世界です)であり、次にコンサル企業の劣化、技量の低下です。場合によっては、受注した会社に業務をまともにこなすことのできるスタッフがいないといったケースすら生じます。

今回の特定健診・・・計画業務のデータ分析は、基本的にすべての給付データが共通仕様で電子化されている介護保険サービスの給付分析より、はるかに複雑で高度な技術、知識レベルが必要です。そうした点への配慮もなく、ただただ目先の価格だけを発注基準とする自治体担当者の見識もまた問われていると考えます。

2007年4月5日木曜日

厚労省による国民医療費推計をめぐって

現在、公表されている厚生労働省による国民医療費の将来推計値については、さまざまな議論があります。株式会社メソッド(東京、03-3220-9171)では、平成17年国勢調査に基づく人口推計を含めて国民医療費の将来推計を独自に行ってみました。このフォーラムの直接のテーマとはやや離れますが、どうぞ議論の参考にして頂きたいと存じます。

★ 近年の実質的な国民医療費はほとんど横ばいで推移

<厚生労働省による「医療制度改革を行った場合の2025年度の国民医療費=56兆円」に対し、メソッド独自試算では39兆円>

厚生労働省が2006年1月に発表した国民医療費の将来推計では、過去の医療費の伸び率などを基に、2015年度の国民医療費を47兆円に、2025年度を65兆円と推計している。同時に、「医療制度改革を行った場合は56兆円にとどまる」としている。

これに対し、日本医師会などが2025年度の国民医療費を49兆円とする独自試算を公表、国会でもこれら推計の妥当性をめぐる議論が展開され、一部では「厚労省は、医療費抑制のために、将来の医療費を過大に見積もっているのでは」との疑念も指摘されている。


現在公表されている最新の平成15(2003)年度の国民医療費は31兆5375億円、前年度の30兆9507億円に比べ5868億円、1.9%の増加となっている。また、国民一人あたりの医療費は24万7100円、前年度の24万2900円に比べ 1.8%増加している。

確かに、医療費の伸びは大きいが、これは当然ながら高齢者ほど1人あたり医療費が大幅に高額となるためという高齢化進行に伴う医療費の伸びと、医療水準の高度化に伴う医療費の高額化、さらには物価水準の変動までもが含まれるため、何が一番医療費の水準を左右している問題かという点は単純ではない。

このため、年齢階層別の医療費が細かく公表されている平成14(2002)年度の年齢階層別1人あたり医療費を基に、過去の人口構成に乗じて医療費を改めて推計してみた。その結果は下表に示すとおりである。2005年度については推計値であるが、2008年に公表される実績値と大きな差はないと考えられる。

この計算値は、これまでの年齢階層別人口に平成14(2002)年度の年齢階層別1人あたり医療費がかかったものと仮定した医療費であり、この計算値と実際の統計値の差が、医療水準の高度化および物価水準の上昇分を含む医療費の増加分とみることができる。

下表から分かるとおり、1985年度からの過去20年間の伸び率でさえ1.8%であり、この10年間、高齢化以外の医療費の上昇はなかったともいえる。もちろん、医療制度の改革も伸び率を押さえた要因ではあろうが、今後も改革を続ければ高齢化要因だけで推移するともいえる。

平成14年度年齢階層別医療費に基づく過去の推定値

今回の試算は、以上の前提と、昨年(2006年)12月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した将来の年齢階層別人口から、高齢化以外の上昇要因について、1)これを見込まない場合(0.0%)、2)過去20年間の年平均伸び率の場合(1.79%)、3)過去15年間の年平均伸び率の場合(1.25%)、の3ケースについて推計を行ったものである。

厚生労働省の「医療制度の改革を前提とする2025年の56兆円」は、奇しくも過去20年間の伸び率を用いた場合の推計値と一致するのだが・・・・

推計結果の詳細はエクセルファイル「統計情報将来医療費推計.xls」をダウンロードしてご覧ください。

【この投稿に関する問い合わせ先】・・・株式会社メソッド(主任研究員)竹田 剛